大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)4412号・昭39年(ワ)635号・昭35年(ワ)2606号 判決
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〔争点〕本件において争いになつたのは、本件家屋の北側に隣接する宅地約三坪が、家屋賃借人たる被告の、家屋敷地として使用し得る土地の範囲に属するか否かということである。
被告は、右宅地は本件家屋の敷地内にある旨主張したが、その中に次のような主張がある。
まず第一に、本件家屋((1)(2)二棟の家屋が含まれていた)の存する地域は商業地域であるところ、右家屋建築当時施行されていた市街地建築物法一一条、同法施行令一四条によると、商業地域における建蔽率は一〇分の八を超え得ないものとされていた。そこで原告(脱退。以下同じ)は(2)の家屋建築に当たり、その建築面積を(2)の家屋の建坪四二坪と、当時その北側に存した二棟の土蔵の中北側の土蔵の建坪八坪とを加えた五〇坪とし(南側の土蔵一棟は(2)の家屋を建築するに当り取りこわされた)、その敷地を六六坪八合四勺、即ち建蔽率は一〇分の七・五として大阪府知事の許可を受けたのである。ところが右八坪の土蔵は現存しないから右(2)の建物の敷地面積は四二坪の〇・七五分の一即ち五六坪であるというべきである。ところで(1)(2)の家屋の間には建築当時南側に幅一尺七寸五分の空地が存し、これは(2)の建物の敷地とされた。しかして(2)の家屋の南北の長さは四八尺であり、本件宅地の東西の幅は三五尺であるから、(2)の家屋の北壁線以南の敷地面積は一七四一・二五平方尺となる((1.75尺+48尺)×35尺=1741.25平方尺)。したがつて(2)の家屋の全敷地面積五六坪(二〇一六平方尺)により一七四一・二五平方尺を引いた二七四・七五平方尺が右家屋北側に存するその敷地というべきである。これを敷地の幅三五尺で除すると七尺八寸五分となるから、右家屋北側壁より北へ七尺八寸五分寄つた東西の線までが右家屋の敷地である。しこうして右法令が建蔽率について規定したのは、単に建築工事施行上の規制ではなく、建物の使用につき保安並びに保健上の必要に基づくものであるから、右七尺八寸五分北へ寄つた線までは(2)の家屋の使用について保安並びに保健上必要不可欠の敷地部分である。したがつて本件家屋賃貸借契約において敷地につき特別の約定が存しなくても、被告は家屋賃借権に基づいて当然右敷地を使用する権限を有するのである。もつとも前記法令は昭和二五年に施行された建築基準法により廃止されたが、同法五五条所定の商業地域における建蔽率は一〇分の七であつて、これによると本件建物の場合その敷地面積は六〇坪となり、前記七尺八寸五分より更に北へ拡がることになるのみならず、市街地建築物法によつて即に被告が取得した敷地使用権は、その後に施行された建築基準法によつて右市街地建築物法が廃止されても何等影響を受けるものではない。
第二に、前記(2)の家屋は、その建築当時その北側に存した前記八坪の土蔵との間に、南北の幅三尺一寸の空地を存して建築されたのであるが、右空地は(2)の建物の敷地とすることで建築許可を受けたものであるから、少くとも(2)の家屋北側壁から北へ三尺一寸寄つた線迄は右家屋の敷地である。
これに対し、原告の承継参加人は市街地建築物法並びに同法施行令中の建蔽率に関する規定は、建物建築の基準に関する行政法規であつて建物賃貸借の如き私法上の権利関係を規律するものではない旨主張して争つた。
本判決は、次のように説示して、被告の主張を退けている。
〔判決理由〕家屋賃貸借契約に於て当該家屋の敷地(ここで云う敷地とは家屋の存する一筆の土地、家屋が数筆の土地に跨るときはその数筆の土地全部を云う)の使用につき別段の定めのない場合に於ても、諸般の状況から考え合理的と認められる範囲の敷地(右同)については家屋賃借人にこれが使用を許す趣旨であると考えられるが、その範囲如何は、家屋と敷地(右同)との関係(敷地の如何なる部分に家屋が存するか、敷地のうち家屋の存在する部分以外の部分の広さ、利用価値等)、当該家屋の構造賃借人の家屋使用目的並に使用状況等から見た賃借人の敷地(右同)使用の必要度並にその範囲、近隣に於ける土地使用の状況等より賃貸借契約当時に於ける当事者の合理的な意思を解釈して定められるべきものであると考える。この点に関し被告は本件家屋建築当時施行せられていた地街地建築物法並に同法施行令に規定する建蔽率を以て本件家屋の敷地(ここに云う敷地とは家屋賃借人が右賃借権に基いて使用出来る土地を云う)を定めるべきであると主張するが、同法令は専ら保安衛生並に災害予防の見地から、一定地域の土地利用権者がその地上に建物を建築するにはその建物の建坪に応じた一定割合の空地をその建物の周囲に存せねばならない旨を定めて、国民の土地利用権に一定の公法上の制限を課したものであり、土地利用権者相互間に於ける土地利用関係の調整をはかることを目的としたものではないのであるから、私法上の権利関係たる家屋賃借人の使用し得る敷地の範囲如何は同法令の関知するところではないと解される。従つて右主張は採用出来ない。又被告は、本件家屋の建築に当りその北側に存した土蔵との間の三尺一寸巾の空地を右家屋の敷地とすることでその建築を認可せられたものであるから右空地は本件家屋の敷地であると主張するが、右建築認可は建築着工に先立ち当該建築が前記法令に定める基準に適合する旨を確認する趣旨の行政庁の処分に過ぎず、もとより前記の如き私法上の法律関係がこれによつて定められるものではないから、右主張も又採用出来ない。(林義一)